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ペルソナ作ってそれからどうするの?〜ライフスタイルを提案するユーザー中心のデザイン〜(0.はじめに)
はじめまして。株式会社イードで、ユーザビリティ&ユーザーエクスペリエンスに関するリサーチ&コンサルティングを担当している棚橋弘季です。
私事で恐縮ですが、最近、私が朝起きて必ずすることがあります。それは一杯の水を飲むことと一杯の水を梅の木の盆栽にあげることです。この2鉢の盆栽です。
2つの写真。左のほうが最近撮ったもので、花の季節も過ぎ、剪定も終わった状態のもの。右が片方の鉢は花が咲き、もう片方はまだつぼみだった頃の2月末の時点の写真です。
花が咲いていたり、葉っぱが出はじめていたりという以外に違いがあるのがわかりますでしょうか? 1つは左の写真には苔が張ってあること、もう1つは向かって右の木の鉢が変わっていることです。鉢の植え替えも苔張りの作業も自分でやりました。盆栽なんてはじめてだったので、本を買ってきてやってみたのです。それから最初にも書いたように毎日水をあげていますし、花の季節が終わったら来年に備えて剪定もします。これからの季節は虫が出はじめますのでその対策もしないといけません。ペットほどではないにせよ、生物ですから世話が必要です。
なんでこんな話を書いたかというと、いま私にとって一番愛着のあるモノがこの2鉢の盆栽だからです。もちろん、その背景にはそれぞれ鉢を手に入れた経緯も関係しています。左の鉢は前に勤めていた会社を辞める際に同僚たちから頂いたものですし、右の鉢も買ったときのシチュエーションが私にとっては大事な思い出だったこともあります。ただ、そういう入手の経緯だけがこの鉢への愛着につながっているかというと、どうもそういうわけじゃないんですね。どちらかというと、維持するのに手間がかかるということ自体が愛着につながっているという気がするんです。この手間というのは、私の生活の一部になっているんですね。生活のスタイルを規定しているともいえます。毎朝水をあげなきゃいけないので旅行をするときはどうしようって思うからです。それはペットを飼っている人の悩みと近いと思います。ただし、それは携帯電話を充電するのとは違う。充電は携帯電話が使えなくなるのを防ぐだけですが、盆栽に水をあげるのは私にとってはそれとは違う経験です。水をあげること自体、楽しいんです。もちろん、携帯電話を充電するのは楽しくありません。この生活のスタイルに変化をもたらすモノの力がいまのデザインにあるのかなというのが最近の私の疑問です。そして、それは私自身の仕事と無関係ではないと思っています。
■ユーザー中心のデザインのアプローチ
さて、私の仕事はユーザビリティやユーザーエクスペリエンスのデザインのための調査・コンサルティングです。具体的には、携帯電話やデジタルカメラ、カーナビなどのデジタル情報製品やWebサイトのデザインにおけるユーザビリティやユーザーエクスペリエンスを評価したり、実際にユーザビリティやユーザーエクスペリエンスに優れたデザインを作るためのユーザー調査をサポートしたりする仕事になります。
そのなかでプロダクトのデザイン、Webサイトのデザインの上流工程でのユーザー要求明示のための手法としてペルソナ/シナリオ法を使うことがあります。人はそれぞれ固有の生活・仕事環境におかれています。そこには個別の問題、要求があるでしょう。そこでユーザーの生活行動、特定のモノの利用状況を把握することから、ユーザー自身も気づいていない潜在的なニーズを抽出し、それを具体的に改善するための方法をデザインする。このデザインのアプローチは、一般的にユーザー中心のデザインあるいは人間中心設計と呼ばれているものです。技術主導(テクノロジー・ドリブン)のアプローチではなく、ユーザー主導(ニーズ・ドリブン)のアプローチにより製品やWebのデザインを考えるという方向性をもつもので、従来の技術主導のデザインのアプローチとは発想の視点が180度違うといえます。
ペルソナ/シナリオ法は、このユーザー中心デザインを進めるデザインプロセスにおいて、調査データの分析により明示されたユーザーの行動・ニーズを元に、製品やWebサイトを利用するユーザーの人物像、目的、ゴールなどを明確にし、実際にユーザーがデザインしたモノを用いて自身の問題を解決していくシーンを描くことで、ユーザー側からみたデザインの要件を抽出するための手法です。その意味では、とうぜん、ペルソナを作って終わりということにはなりません。ペルソナ/シナリオ法を用いてユーザー視点でのデザイン要件は抽出できました。で、それから、どうするの?というのが実はデザインの現場レベルでは意外と問題だったりしています。
■本連載のテーマ
そういうわけで、今回からはじまる私の連載では、以下の2点をテーマとして考えていきたいと思っています。
1.人びとに具体的な生活様式を提案するものとしてのデザインの役割を考える。
2.ペルソナ作成後のデザインのプロセスおよびその具体的な方法を明らかにする。
1つ目のテーマでは、そもそも、なぜいまペルソナ/シナリオ法やユーザー中心のデザインというアプローチによりデザインを考えることが必要なのかという点を明らかにすることで、どのような意識でペルソナ/シナリオをつくればよいか、それをどう活かせばよいかという点を考えていこうと思います。キーワードとしては「近代デザインの挫折」「ユニバーサルデザイン批判」「生活とモノ」ということになるでしょうか。
2点目のテーマでは、先にも書いたように現場レベルでの問題としてある、ペルソナ/シナリオ法によるユーザー要求の明示のあとに具体的にどのような方法でデザインを進めていけばよいかということを考えていきます。デザインプロセスにおいて、調査・分析が主体となる上流工程と視覚化・具体化が主体となる下流工程のあいだの溝をいかに埋めるかがテーマです。こちらのキーワードは「ワークショップ」「UMLなどのモデリング技術」「プロトタイピング」になります。
次回からは、このテーマに沿って具体的にお話を進めていきたいと思います。
【テーマ】 02ペルソナの応用