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  • 白根英昭(株式会社大伸社)
  • 株式会社大伸社 取締役m.c.t.事業部長

ペルソナをつくる(3.フィールド調査を設計する)

白根英昭(株式会社大伸社)
2008年07月07日

今回はフィールド調査の設計です。行く場所が同じでも旅行の目的が違えばすることが違ってくるように、プロジェクトのテーマや目的によって採用すべき調査手法が変わります。プロジェクトのゴール、期待される成果、ペルソナへの期待・カバーする領域・活用方法など、あらかじめ明確化したプロジェクトの方向に沿って、どんな手法がより効果的かといった視点でフィールド調査の設計を進めていきます。

■ペルソナのための調査は仮説の創造

フィールド調査の詳細に入る前に、ペルソナのための定性調査の考え方を説明しておきましょう。定性調査には仮説を創造するための調査と仮説を検証するための調査があります。観察法やコンテクスチャルインクワイアリー、デプスインタビューといったペルソナのための調査は仮説を創造するための調査です。一方、ユーザビリティーテストやエキスパートレビューなどは仮説を検証するための調査になります。仮説を検証するための調査というのは、あらかじめ設定した問題に対して、その設定が正しいかどうか、具体的にどの部分がどの程度問題かを理解するための手法です。旅行でいえば、スケジュールが分単位で決まっているパッケージツアーを予定通りにこなすような感じになります。それに対して、仮説を創造するための調査は、自分たちが気づいていない新しいものの見方や可能性を発見するための手法です。何があるかわからないものを探すわけですから、ある程度柔軟に設計し、成り行きによってはやり方を変えたりします。こちらは自由時間がたっぷりある旅行で、おもしろそうな路地があれば一人で奥まで入っていったりする感じに似ています。
ツールとしてペルソナの価値が高いかどうかは、すでにわかっているユーザーの情報を集めて人物像のかたちにまとめただけか、それともこれまで気づかなかったユーザーについての新しい捉え方や可能性がそこに盛り込まれているかの違いです。価値の高いペルソナをつくるためには、いかに仮説創造の調査を設計するかがポイントになります。

■ユーザーの無意識を捉える

通常のインタビューやFGI(フォーカスグループインタビュー)、アンケートなど従来のマーケティング調査の手法は、すでに明らかになっている問題を解く上では有効ですが、これまでになかったあたらしい仮説を創造するのには向いていません。こういった手法は「ユーザーは自分の考えや行動を説明できない」といった近年の脳科学や認知心理学で得られた考え方を前提にしていないので、ユーザーの隠れたニーズ=新しいビジネス機会を扱うことができないのです。そこでユーザーの行動を直接観察し、無意識を探る観察法やコンテクスチャルインクワイアリー、デプスインタビューといった手法を使って、ユーザー自身も意識できないようなニーズを発見しようというわけです。
元IDEOのリサーチャーのマット・マーシュさんに教えていただいたのですが、ハーゲンダッツ社が事業をスタートさせるとき、ユーザーにプレミアムアイスクリームの商品写真を見せながらインタビュー調査をしたそうです。人々は「いらないよ。誰がそんなもの必要としているの」と回答したのですが、ハーゲンダッツ社は製品の販売を決定し、結果は大成功。何があったか。実は、人々が回答しながら舌なめずりをしていたのを調査者が観察していた、という話です。

■製品・サービス自体ではなく、ユーザーの経験を捉える

仮説を創造するための調査で観察法やコンテクスチャルインクワイアリーを採用するメリットがもうひとつあります。それは、これらの手法が製品やサービスが消費されるコンテクストを重視している点です。製品やサービスそのものの問題や不具合を改善するのであれば、その問題を分解し、それらをつぶしていくことで解決できますが、ここからは新しい仮説は生まれません。フィールド調査は、製品・サービスをユーザーの経験というより大きなコンテクストで捉え直すことによって、製品・サービスの新しい見方を可能にしてくれます。
ここでもうひとつ、元IDEOのマット・マーシュさんのお話。フィリップス社でラジオについてインタビューを行った。従来のカラーは「グレー」。新色として加わった「ブルー・イエロー・レッド」についてどう思う?どれがいい?彼らは新色を褒め、それぞれ新色を一番いいと選んだ。回答を聞いたデザイナーはもちろん満足した。「ありがとう、お礼に好きな色のラジオをあげるよ」さて、ここで彼らが選んだのは何色?答えは「グレー」。なぜなら彼らの住む家に一番フィットする色だったから、という話です。

■複数の手法を組み合わせる

では、ここからは具体的な手法を紹介していきましょう。

●観察法

観察は自然な状態でユーザーの経験を理解する手法ですが、漫然と実施してもあまり効果的ではありません。そこで、あらかじめ調査・分析のためのフレームワークを用意して行います。わたしたちがよく使うのはBefore during afterを横軸に、emotional functional interaction を縦軸にとったフレームワークや、縦軸に五感(味覚、触覚、聴覚、視覚、嗅覚)をとったものを使用します。わたしたちが定期的に情報交換しているIITID(イリノイ工科大学デザイン研究科)のクーマ准教授は、AEIOU(activities environments interaction objects users)、POEMS(people objects environments message services)、Human factors matrix (physical cognitive social cultural ×products communications environments systems services)といったフレームワークを紹介しています。フレームワークを使うときは、これらを参考にテーマに合わせてカスタマイズするのがよいでしょう。フレームワークを使って観察・分析することで「たくさん観察したけど、結局よくわからなかった」といった失敗が避けられるようになると思います。

●デプスインタビュー

観察ではユーザーがなぜそのような行動をとったのかは推測することしかできません。デプスインタビューは行動の背景にあるユーザーの真のニーズや価値観、製品・サービスに対する評価や態度がどのように形成されていったかなど、ユーザーの意識や無意識の構造を、オープンエンドな質問を重ねていくことによって明らかにしていきます。デプスインタビューの一番のポイントは、ユーザー自身も意識していないようなニーズをどのようにして引き出すかです。いらいらすることは?あきらめていることは?申し訳ないと思うことは?自分だけの癖は?困ったことは?恥ずかしかったことは?もしその障害がなかったらどうする?逆に**はあなたのことをどう思っている?など、聞き方を工夫します。

●コンテクスチャルインクワイアリー

ユーザーが製品やサービスを利用している現場に行って、実際に利用してもらいながらインタビューする手法です。通常のインタビューではユーザーの記憶に頼って回答してもらうため、行動が思い出せなかったり曖昧だったりします。この手法を使うことで、ユーザーが無意識で行動していることについても、その意味や背景についてその場で確認することが可能になります。また利用状況を観察することで、製品・サービスに関するユーザーの知識やスキルのレベルが把握できます。基本的には、まず先に利用してもらって、その後でユーザーがとった行動の意味や背景、その時の感情などを聞いていきます。一見してわからないようなポイントやコツを引き出すために、調査者がユーザーの行動を真似てみせ、間違いやおかしな点をユーザーに指摘してもらうのも有効です。

●セルフドキュメンタリー

セルフドキュメンタリーは、観察やコンテクスチャルインクワイアリーで調査者が行うことを、ユーザー自身が自分で行えるようにマニュアル化し、web等でアップできるようなシステムを提供し、ユーザー自身に記録してもらう手法です。安価でサンプル数がたくさん欲しい、プライバシーの関係などで調査者が直接観察するのが難しい、グローバルな調査など大規模な調査を簡単に展開したい場合などに有効です。必要に応じて電話などでの個別インタビューを追加することで、質的な深さもある程度確保することが可能です。

●文章完成法

「わたしにとって健康とは_________________。」「健康でないときのわたしは_________________。」といった感じで、テーマに関連して複数の未完成の文章を提示し、それらを仕上げてもらいます。特にユーザーの信念や思い込み(ビリーフ)を引き出すのに有効です。宿題にしておいて、完成した文章の意味を説明してもらったりもします。

●自分史

過去の経験や記憶が製品・サービスの選択に影響を与えている場合など、テーマに関連するユーザーの経験を年表のように記入してもらいます。宿題にすればデプスインタビュー当日に向けてユーザーの意識を活性化することができます。

●マガジンフォトコラージュ

テーマに関連する写真や切り抜きなどを持ってきてもらい、その素材を媒介にデプスインタビューを行います。コラージュをつくるという行為を通じて、潜在化している感情や考えをユーザー自身に発見してもらいます。こちらも素材選びを宿題にすることで当日に向けてユーザーの意識を活性化することができます。

●カードソーティング

テーマに関連するキーワードやイメージ写真、商品などをプリントしたカードの束を用意し、それをユーザーに渡して分類していってもらうことで、ユーザー側からみたカテゴリーや価値基準を明らかにする手法です。ラダリングによってそれぞれの上位概念、下位概念を聞いていきます。

●レスポンスレイテンシー

あらかじめ用意したたくさんのカードを1枚あるいは2枚ごとに順々に見せていき、好きか嫌いか、似ているか似ていないか、近いか遠いかなどを、感覚的に選んでもらい、それぞれの反応時間を分析する手法です。反応に時間がかかったものや速すぎるものについて深くインタビューしていきます。

以上のような手法以外にもプロジェクトごとにより効果的な手法を検討するのがよいでしょう。これらの手法を組み合わせ、適切な順に並べなおして、最終的に一人のユーザーに対して2時間程度のプログラムに仕上げます。

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