TOP関連コラム高井紳二(同志社大学商学部) ペルソナの「いろんなところ」への活用思案(1.製品開発の歴史とペルソナの登場)

  • 高井紳二(同志社大学商学部)
  • 同志社大学商学部教授

ペルソナの「いろんなところ」への活用思案(1.製品開発の歴史とペルソナの登場)

高井紳二(同志社大学商学部)
2008年07月09日

 このところ、ちょっとしたペルソナブームである。ペルソナ関連の書籍も増えつつあるし、「ペルソナ」という言葉を聞く機会も多くなった。これはアラン・クーパーの提唱したペルソナメソッドが、ウェブの作成だけでなく画面の設計から製品開発、サービスの開発にいたるまで活用範囲を広げ、さらには社内のコミュニケーション方法の展開、そして顧客と名のつくもの全般に応用されるようになったためであり、ペルソナの使い方が結果としての顧客イメージだけから、ペルソナの構築過程を多面的に活用しようという表れでもある。
 この連載では、ペルソナの意義をもう一度考え直すことにより、さらにペルソナの活用範囲を広げたり、ペルソナを精緻化することの可能性を探ってみたいと思う。

■顧客とユーザーの区別、そして新たな顧客像へ

 ペルソナが顧客の求める機能やデザイン、さらには製品やサービスが持つ暗黙的な価値を定義したり、表現するようになったことには歴史的な経緯がある。これは製品開発における歴史でもある。最初にこの歴史を簡単に振り返ってみることにしよう。

 まず、「顧客」を「ユーザー」と定義しなおすところが出発点となる。ユーザーとは、まさしく製品を使用したりサービスを受けたりする人であり、顧客よりも積極的な意味をもつ。使うという行為に対して意見や感情をもち、改善したり、代替するという行為を繰り返す人々がユーザーである。これに対し、顧客は使ってくれる人ではあるのだが、消費するという行為に主眼がある。したがって、ユーザーは、顧客をより開発者に近づけ、機能的な側面を強力にし、開発者との距離を近づける人々であるといえる。この点において、ユーザーは企業にとって協力すべき人であり、仮想的には企業と対峙するのではなく協働する人々なのである。

 このように、従来の顧客とユーザーが区別されるようになったことにより、ユーザーという良き協力者を思いやったり協業したりする過程を含む新しい「顧客像」を作り上げる必要が出てきた。

■イノベーションの源泉としてのユーザー

 新たな顧客像を求める動きには、1970年代からのイノベーションの研究が影響を与えていると考えられる。V.ヒッペルの研究である「イノベーションの源泉」では、イノベーションの源泉として、メーカー、サプライヤー(部品等の提供者)、ユーザーの3つがあると指摘されている。

 イノベーションの源泉としてのユーザーは、開発する手段を持っていないという点で他の2つとは異なる。メーカーやサプライヤーは自分でイノベーションを達成することができるが、ユーザーは閃いたことや改良したいことを実現する手立てを持っていないのだ。 しかし、ユーザーはイノベーションの一翼を担う重要な存在であるという認識が広まるにつれ、開発工程やマーケティング工程に、いかにユーザーを組み込むかが重視されるようになった。

 また、製品設計における重要な視点の変更もこの時期から加わってくる。特にIBMのシステム360以降におけるアーキテクチャ思想とモデュール開発が一般的になることにより、サプライヤーとユーザーの位置づけが変化してきた。この変化は統一的な設計思想のもとで、あらゆるイノベーションを積極的に組み込むことを可能にした。具体的には、この機器の設計者であるアムダールが、中央演算処理機と周辺機器をシステム化してそれぞれ分離したことで、周辺装置の個別の開発が可能となり、さらに、接続の仕様を明確にしたことで機器の接続が可能になった。この結果、周辺機器の開発と組み合わせの自由度は一気に増し、組み合わせを論理付けるためにユーザーの積極的な意見が重視されるようになったのである。

■デザインに対する要望の変遷

 これまで「よい設計」の条件としては、デザインがよく、コストが最小で、作りやすいことが求められてきた。しかし、デザインや設計が複雑になるにつれて、新たな統合方法が必要とされるようになった。デザインについていえば、これまで製品機能を表現し、芸術的な美しさも持ち備え、かつ差別化されているものであればよかったものが、より芸術性を求めるもの、工業的に性能発揮を重視するもの、そして経済性を追求するものとのせめぎあいの中で選択が行われ決定されるようになった。すなわち、あるものは価格を重視し、あるものは形の美しさを求めるといったように、要求が異なるようになったのである。

 このような変化の中で、デザインが適切かどうかの検証も、「これでいかがでしょうか」という形から「これでしょう」に変わっていった。人々が豊かになるにつれ、「あればよい」という志向から、「もっと良いものを」、「他人とは違ったものを」という志向が強まり、それすらも多様に展開されるようになった中で、「本当に欲しかったものはこれでしょう」という提案に遷移してきたためである。「欲しいものはこれでしょう」という提案をするためには、その欲求を持っている人々と協調行動をとることが不可欠であり、ここに徹底した顧客、ユーザーの分析が始まった。

■ユーザー志向とイノベーション

 過去においてさまざま製品が組み合わせの中から作られることがあったとしても、それは経済性の視点からなされることが多かった。しかしユーザーの志向に合わせた組み合わせが可能になり、それがイノベーションにつながるとなると、ユーザー志向であることは、重要な企業行動と深い関連を持つようになる。

 思想は訴えるものであり、宗教は人々の心をとらえて共感させるものである。われわれの周りにある製品やサービスは「訴求」したり、されたりするのではなく、穏やかに入りこむことが重要であり、まさしく宗教のように必要とする人々に受け入れられてくるものである。このことがユーザー志向の重要性の認識を深める背景となっている。

■ユーザー志向実現のために

 最近注目される企業のひとつに、IDEO社がある。IDEO社は、携帯電話や日常品さらにはオフィス機器など多方面でデザインを担当して評判を得ており、インダストリアル・デザインの立場を作り変えつつある企業だ。

 米国、欧州においてはデザインの外部化は日常的なことであり、優秀な外部デザイナーの存在はこれからも必要とされてくるだろう。日本においてもインダストリアル・デザインの重要性は認識されてきている。シャープの液晶TVの成功は、外部デザイナー起用の成功事例のひとつである。

 IDEO社は科学的な分析と革新的なアイディアの創出そして製品の実現可能性を成し遂げた企業といわれる。ユーザー志向のための動きはきわめて分析的であることが要求される。あれこれと試行錯誤だけを繰り返すことではなく、データを収集し、解析し、何かを発見し、討論をし、受益者との検証を繰り返し、決定してもフィードバック機能を働かせる一連の行為が必要なわけである。このような行為は、天才のひらめきとは対極にある組織だった行動であり、科学的な行動である。

 企業の設計活動において分析的な作業が重視されるにしたがって、デザインの外部化をはじめとして新しい仕組みが追求されるようになる。
ペルソナを活用するということは、企業が活躍する市場、重要な顧客資産、そしてユーザーへの思考方法や評価方法を変更したり、その対応方法として企業システムをも変更することを意味している。すなわち、ペルソナは、ひとつのツールではなく、イノベーションメカニズムの新構築の一歩として捉えることが重要なのである。

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